大西暢夫プロフィール

1968年生まれ。岐阜県池田町出身。
東京綜合写真専門学校を卒業し、写真家・映画監督の本橋成一氏に師事。
29歳で独立。その後、フリーカメラマンに。
日本最大のダム建設に翻弄される岐阜県徳山村をはじめ、全国各地のダムに沈む村の取材を同時に始める。ほかに精神科病棟に長期入院する患者さんや、東日本大震災、障害者施設や職人など、根底には、『衣食住』をテーマにしている。そのほかにもドキュメンタリー映画も制作している。
2025年日本写真協会賞受賞。現在は、雑誌連載、映画制作、執筆など。

大西暢夫プロフィール

主な著書

『僕の村の宝物』(情報センター出版局)1998年

『分校の子どもたち』(カタログハウス)2000年

『山里にダムがくる』(山と渓谷社)2000年

『おばあちゃんは木になった』(ポプラ社)2002年 第8回日本絵本賞・全国学校図書館協議会選定図書

『ひとりひとりの人~僕が撮った精神科病棟~』(精神看護出版)2004年全国学校図書館協議会選定図書

『花はどこから』(福音館書店)2005年

『水になった村』(情報センター出版局)2008年

『徳山村に生きる』(農文協)2009年

『アウトサイダー・アートの作家たち』(角川学芸出版)2010年

『ぶた にく』(幻冬社)2010年 第58回産経児童出版文化賞大賞・第59回小学館児童出版文化賞

『糸に染まる季節』(岩崎書店)2010年

『東北沿岸600 キロ震災報告』(自費出版:岐阜新聞社協力)2011年

『3.11 の証言』(自費出版:岐阜新聞社協力)2012年

『ミツバチとともに』(農文協)2012年

『津波の夜に』(小学館)2013年 全国学校図書館協議会選定図書

『シイタケとともに』(農文協)2015年 2023年 岩手県課題図書

『ここで土になる』(アリス館)2015年 2016年 全国課題図書

『ホハレ峠』(彩流社)2020年 第36回農業ジャーナリスト賞

『お蚕さんから糸と綿と』(アリス館)2020年 2021年 福島県/ 新潟県/ 鳥取県課題図書

『和ろうそくはつなぐ』(アリス館)2022年 2025年JBBY選定図書

『ひき石と24 丁の豆腐』(アリス館)2024年 2025年 第72回産経児童出版文化賞大賞 2025 年 岩手県課題図書

『炎はつなぐ』(毎日新聞出版)2025年 6月出版

『やさしいカタチ』(彩流社)2025年7月発売

映画監督作品

『水になった村』2007年

『家族の軌跡』2015年

『オキナワへいこう』2018年

『炎はつなぐ』2025年7月19日より公開予定

和ろうそくが紡ぐ循環と進化の物語

大西暢夫(『炎はつなぐ』監督)

和蠟燭の取材をしに、愛知県岡崎市の松井本和蠟燭工房を訪ねた。
松井さんが、手で蠟を塗っている作業はとても魅力的で面白かった。
塗っては表面を乾かし、それを繰り返すことで、しだいに蠟燭の太さに近づいていった。
仕事部屋の片隅に、丸みを帯びた蠟の塊が3種類、置いてあった。
それぞれ採取された地域も異なり、種類も違うというのだ。
おまけに蠟の抽出方法まで異なるそうだ。何もかも初めて知ることばかりで戸惑った。
「ところで、蠟ってなんですか?」
恥を凌いで今更ながら、聞いてみた。
「ハゼの木の実です」
ハゼの木ですら、ほとんど知識はなかった。
和蠟燭職人の取材にきたのだが、材料も素材もわからず、取材は前に進まなくなった。
そして、和蝋燭に使う芯も、ただの紐ではないことを知った。構造が複雑で、3種類の材料を組み合わせる。その器用に動かす指先には驚いた。
芯の材料は、和紙、灯芯草、真綿。
蠟を塗ってしまい、火をつけたら芯の存在は、消えてなくなるものだった。誰の目にも触れることなく、その技術を声高にも口にせず、淡々と作り続ける職人の仕事に魅了された。
素材が面白いことと、化学的な物は一切使われていないことに気が付いた。
では、蠟はどこで誰が作っているのか、和紙は漉いてできていることは、知っていたが、本質は知らない。灯芯草って一体なんだろう。真綿ってなんの綿?
知ってそうで知らないものばかりが、和蠟燭屋さんに集結し、それが形となり、火が灯る。
和蝋燭のことを、もっと知ろうとするためには、現場に行くしかないと思った。
すると、それぞれの職人たちの仕事も、また奥深いものばかりだった。自分が今まで、知っていたような気になっていただけだった。
そして作っていく工程で出てくる廃材のようなものが、次に使われていく。その無駄にしない技術は日本の得意とする循環社会のはずのように思っていたが、大量生産、大量消費の時代の中で、使い捨てが流行り、素材も安価なものに変わり、土に戻らない素材が主流になっていった。
こうした流れの中でも、手仕事を続けてきた職人たちは、先代から引き継ぎ、続けてきたことで、和蠟燭は存在する。一人の職人が欠けることで、循環できていたはずの滑車の動きがぎこちなくなり、いずれは回転しなくなる。そんな凝縮された小さな社会が和蠟燭を通じて見えてきた。
ものの価値とは、色や美しさや形で語られるのではなく、そこに行く着くまでの進化の物語にこそ、価値が見え隠れしていると思う。

大西暢夫(『炎はつなぐ』監督)
大西暢夫(『炎はつなぐ』監督)
大西暢夫(『炎はつなぐ』監督)
大西暢夫(『炎はつなぐ』監督)