コメント
大西監督が 15 年の歳月をかけて制作した力作だ。私は最近「うんこと死体の復権」という、ゴミ,排泄物、 死体を土に還す人々や同じように,全ての生き物が循環の輪の中にいる野生の世界を追った映画を作りまし た。そういう意味では、1 本の和ろうそくを作るまでに、職人たちがそれぞれのパーツを作り、廃材すらも 人々に再利用される様子を丹念に追っている。持続可能性で大切なのは循環だと分かっている大西監督を同志 と思えるようになった。
関野吉晴(探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授)
ゆらめく炎の先に見える確かな希望
これは大西暢夫にしか作ることができなかったドキュメンタリー映画だ。しかし大西もこの作品に写る職人さんの普段の姿を捉えるのに、15 年近くかかっている。寡黙に見える職人たちだが、誰もが自分の技術の継承を望んでいて、大西を相手に多弁に語る姿が印象的だ。
和ろうそくができるまでに、どれだけの原料を集め、どれだけの職人たちの手を経て材料に仕立てられているのか。すべては自然の中にある植物由来のものから生まれていることに、改めて驚かされる。
私たちの文化を支えてきたのは、まさにたった1 本の和ろうそくの炎を途絶えさせることなく守り続けてきた、職人たちの存在なのだ。
この映画では日本全国の14 カ所の職人たちを取り上げているが、大西が撮影した場所は優に150カ所を越えている。
この映画に登場する職人たちは皆高齢であり、熟練した技はあっという間に途絶えていくかのようにも見える。しかし、映画の中には確かな手応えをもって若い後継者たちの姿が写っている。
そもそも熟練した技術というものは、職人と言われる人たちの人生の最後に授けられる、自然からの贈り物のようなものなのだ。
消えゆくものを静かに見つめるのではなく、和ろうそくのゆらめく炎の先に確かな希望を見出すことができるのが、この映画の最大の見どころである。
山上徹二郎(『炎はつなぐ』プロデューサー)
