職人たち
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養蚕農家
愛媛県大州市。
次男の瀧本吉良さんは、妻の京子さんと息子、六男の亀六さんは、娘と孫のそれぞれの家族が同じ敷地内で、春から秋まで年に4回、養蚕を営んでいる。それぞれの季節で二家族合わせて40万頭ほどの繭を作っている。愛媛県で最も多くを出荷している家族だ。
吉良さんは90代後半、亀六さんも80代後半。そして30 代で孫の慎吾さんがあとを継いだ。 -
ちぎりこさんと本多木蝋
長崎県島原市。
ちぎりこさんの島田紘靖さん。農閑期の12月頃からハゼの木に登り、実を採取している。それを本多木蝋に納品し1日の仕事を終える。
本多俊一さんは、その実を蒸して、玉締め式圧搾機という年季の入った機械で蝋を絞り出す。
妻の美佐さん共々教師だったが、退職後、父親の仕事を継ぎ、島原市の伝統文化を残していこうと、木蝋の大切さを伝え続けている。 -
森山絣工房
福岡県広川町。久留米絣が盛んなこの地域で、森山家は1858年から続く老舗の絣工房だ。捨てるだけになったハゼの実の殻を利用し、気温が低い冬場の発酵を進めるための熱源の燃料として、使われてきた。昔ながらのそのままの手法で藍染めから織りまで、家族で行ってきた。染め、結び、織り、それぞれが手に職を持ち、今まで伝統を引き継いできたが、2023年の夏、九州北部豪雨で壊滅的な被害に遭ったが、今年、息子たちを軸に、面影を残しつつ、新しく工房を立ち上げた。
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新居製藍所
徳島県上板町で代々続く老舗の新居製藍所。藍染の元となる蒅を作っている。森山絣工房とは代々繋がっていて、現在も互いの仕事を尊重し合いながら、後世に繋げている。
1トンある葉藍の山を1日かけて、切り返す作業。それを3ヶ月続け、蒅が完成する。家族でも藍を育てながら、地域の農家からも藍を仕入れる。現在は息子も後を継いだ。 -
ミツマタ農家
岡山県美作市はミツマタ生産で盛んだった地域だったが、昔ながらのやり方でミツマタを栽培しているのは、右手さん家族だけになったという。ミツマタの花が咲きかけた頃、3年ほどかけて育てたミツマタを伐採する。それを蒸しあげ、皮を剥く。本来なら、へぐる作業(外皮を削ぐ)まで行ってきたが、人材不足のため、そこまでの作業はできない。和紙職人の上田さんとは代々のお付き合いになる。
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和紙職人
岡山県津山市横野地区。この地域は和紙で盛んだったが、上田さん一家が唯一、和紙の仕事を続けている。ミツマタ農家の右手さんから引き継いだミツマタを原料に日本で唯一の箔合紙を漉いている。ティッシュペーパーより薄い箔合紙は、金箔を納品する際に間に挟み込む紙のことだ。
撮影が続く2024年に6代目の繁男さんが死去した。 -
金箔職人
金沢市の中村製箔所。金を叩き、均等な大きさにカットされた金箔を、一枚ずつ箔合紙に挟み、桐箱に100枚単位で詰めていく根気のいる仕事。金箔では和紙を扱っている時間がほとんどだ。金を叩くときに和紙に挟んで伸ばす時の和紙は、箔打紙。雁皮が原料だが、箔合紙はミツマタが原料になる。昔から津山の和紙は金箔と欠かせない関係にある。
中村孝一郎さんは撮影中に死去。現在も中村家と職人の安江晋さんで営んでいる。 -
塗師屋
中村製箔所から届いた金箔を壁や仏具に貼る富山県高岡市の塗師屋。金箔の重なりを少なくしながら、漆を塗った場所に一枚ずつ乗せていく。その後、真綿で優しくなぞるように金箔を抑えると、鏡面仕上げのような美しさに輝く。100 年先にまで残る自分の仕事を、どのように後世に伝えていけるのかを模索しつつ、技術の伝承に貢献している。
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漆掻き
岩手県二戸市。日本の漆のほとんどがこの地域で採取されている。泉山義夫さんは、この地域で生まれ、現在は浄法寺漆の組合長。毎年80キロほどの漆を掻いている。
6月から11月まで行われる漆掻き。雨と田植えの日以外は、ほとんど山の中で仕事をしている。山が大好きだから、田畑の仕事も早急に終わらせて、漆掻きに専念するほどだ。 -
灯芯引き
奈良県安堵町は灯芯の街と謳われているが、現在、灯芯草農家は一軒も見当たらない。
水でふやかした灯芯草の髄をナイフを使い抜いていく谷野誓子さんと近藤倖子さん。幼馴染の二人は仲良く灯芯引きを続けている。簡単そうに見える作業だが、二人のように途中で切れずに長いまま剥ける職人はいない。 -
墨職人
剥かれた灯芯草は奈良市にある古梅園で多く使われる。450年ほど続く古梅園は、奈良の墨の歴史を作ってきた。小さく巻かれた灯芯草が菜種油を吸い上げ火が灯され煤をとっている。その煤を膠で固めているから、油煙墨という。習字に使う墨だ。工場長の本橋大司さんの仕事を撮影した。
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真綿職人
金箔でも真綿は必要とされ、和ろうそくでも芯にわずかな量だが必要不可欠なものだ。その真綿はお蚕さんが原料で、生糸と真綿に用途は分かれる。滋賀県米原市で作られてきた真綿。北川さん一家が営んできた。愛媛県大洲市の養蚕農家の瀧本家から仕入れ、すべて真綿に加工してきた。
角綿と呼ばれるハンカチほどの大きさの綿を二人で伸ばす作業は美しく圧巻だ。 -
和蝋燭職人
愛知県岡崎市の松井本和蝋燭工房の松井規有さんと文子さん。規有さんが和ろうそくを制作し、文子さんが芯を作る。和ろうそくの蝋はハゼの実。木蝋屋さんから仕入れている。芯は和紙、灯芯草、真綿を使う。その組み合わせで和蝋燭はできている。
手塗りの蝋は、乾いて塗っての繰り返しだから断面は年輪のようになっている。
文子さんが作る芯は、蝋を塗ってしまったら見ることはできないし、燃えつきて灰になり、制作途中を知らないと見ることすらできない。和ろうそくは職人たちの集大成だ。